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「祐・・・」 「佳織・・・」 休日、昼真っから自宅での安らぎ 愛しい人と2人で過ごすとき この時の為に俺は生きているんだ。そう確信できる 「ね、ちゅーして?」 「ん、ほら」 肩を抱き寄せ唇を重ねる 胸の脈動が僅かずつ早くなる ずっと。ずっとこうしていたい ピンポーン 無機質なチャイム音が静まった部屋に鳴り響く そう、お互いの鼓動と口内のお互いにしか聞こえない水音以外は 「もう、誰よ」 「ん。しょうがない。俺が出てくるよ」 「早く戻ってきてね」 「わかってるって」 ピンポーンピンポーン 「ったく誰だよ」 悪態をつきながらも小走りに玄関へと向かう 「はいどなたー?」 ガチャ。ドアを開けるとそこには見慣れた女性がいた 「こんにちわ」 「は、悠?何で俺ん家に?」 嘗て俺が愛した女がそこに居た あまりに唐突に、そしてあまりに短すぎた嘗ての彼女が 「遊びに」 「いや・・・今はちょっと」 「何で?用でもあるの?」 「ちょっとね」 「最近いつもそれじゃない。いつならいいの?」 そう、そうなのだ。最近よく遊びに誘われるものの全て断っている 俺にはもう心に決めた人がいる。想ってくれる人がいる そう考えるととてもじゃないが他の女性と遊ぶ気にはなれない 「ねー、どうなのー」 しかしそれももう限界なのか。いつまでも誤魔化すには無理が生じるかも知れない はっきり言ってしまった方がいいのだろうか 「私と遊ぶのがイヤなの?」 「いや・・・その・・・そういうわけじゃないけどちょっと無理って言うか」 嗚呼、俺の馬鹿。優柔不断。何言ってんだ ここは言うしかないだろう。きっぱり無理だと そうじゃなきゃ姉に申し訳ない。そうだろう? 言え、俺!腹をくくれ! 「つまりだな、俺は―――」 「祐ぉ〜。まだぁ?」 背筋が凍りついた。そんな表現が脳裏を過ぎった 最悪だ。最悪の場面だ。元彼女と彼女が自分の自宅で出くわす しかも片方は実の姉。どうすればいいんだ 頭の中はパニックになってもいいのに何故か冷静さを増していった しかし、妙案が思い浮かぶわけでもない 最悪のケースが次々と思い浮かぶだけ。修羅場。まさにそれだった 「ね、姉ちゃん」 「あら・・・えっと・・・悠ちゃん・・・だっけ?」 「お姉さん。お久しぶりです」 え?何だこの会話?この2人って面識あったか? 全く見に覚えが無い。2人がにこやかに視線を交わすのが不気味で その居心地の悪さと言ったら表現のしようがなかった 「えーっと・・・その。2人って知りあいだっ・・・け・・・?」 「この前、ちょっと。ね」 「ええ、まあ」 怖い。只管に怖い。こういう場合男は弱者でしかないのだろうか 否。俺は何もやましいことはしていないはず 堂々と。萎縮などせずに胸を張っていればいいのだ 「私、ちょっと悠ちゃんに言いたいことがあるんだけど。いいかな?」 「構いませんよ。私もお話したいことがありますから」 体からシグナルがでる。ここにいては危険だ 最大級の警報が身を案じろと訴えているのがわかる 「あ、それじゃあ俺は――」 「祐も付き合ってね。ね?」 「あ・・・はい・・・」 凄まじいほどの威圧感。俺は首を横に振ることも出来ずただ頷くしかなかった 嘗ての姉の迫力が蘇ったような気がした 「じゃあとりあえず祐の部屋で。こんなとこじゃなんだし」 「はい。じゃあお邪魔します」 決戦は俺の部屋。どうやら我が家に安息の地はないようだ 「あ、俺お茶汲んでくるよ」 「そんなのいいから。来なさい」 これはもう覚悟を決めるしかないようだ とりあえず座布団だけ敷き、姉と悠が向かい合って座る 俺はその間に2人を見つめながら座る まるで検事と弁護士の間にいる被告人のようじゃないか 俺が何をしたと言うのだ。そりゃあ優柔不断なところはあったが 今は姉、佳織一筋。しかしこの緊迫感の前では口が閉められたように動かない ピリピリと緊張が漂う空間で交互に2人を見つめるしかなかった 1分と言う時が永遠とも思えるこの沈黙 別段二人の表情は何時もと変わりないが俺には殺気を放っているかのようにさえ思えた 先に口を開いたのは姉だった 「悠ちゃん。最近、祐のことをよく遊びに誘ってるみたいだけど。どうして?」 「いけませんか?同じ学校で仲良くしてるんだし、当然じゃないですか?」 「へえ・・・仲良くねー」 チラッと姉が俺の顔へを視線を向ける。鋭く、そして冷たく 圧倒された俺は体を後ろへ逸らす 「【私の】弟をあまり引っ張り出すのはやめてもらいたいな」 私の。とだけ強調されて発言される そう、この一言が女の戦いの始まりの序章を相成ったのだ 「そう過保護にしても祐が可哀想じゃありませんか?」 「私は姉として大切な弟の心配をしてるだけよ」 「祐は子供じゃないんですよ?自分のことくらい自分で決めますよ。ねえ?」 そうきたか。そのタイミングで俺に振るか 一閃。そう、これは太刀筋 この太刀筋をどう捌くかで今後の展開が決まると言っても定かではない 「え・・・いや・・・あ・・・うん・・・俺は」 「それはそうだけど、【私の】大事な弟に何かあったら心配だから。ねえ、祐?」 2本の太刀が俺を襲撃する。あちらを捌けば此方に斬られる 「あ、いや、俺はね」 「過保護と愛情は違いますよ。大事なら信頼してあげればどうです?」 「あら、私が弟を信じてないとでも?」 「聞いてる限りそう聞こえます」 何故にこの2人はこんなにも好戦的なのだ。俺か?俺のせいか? 俺が優柔不断なのが悪いのか?それでもちゃんと決めたのにやっぱり俺のせいか? 「それについ最近までは【私の】彼氏だったんですから。ねえ?」 空気が変わった。俺にはわかる。見える 漫画で言うムカついた時に浮き出るマーク。姉の顔にはあれが浮き出ている 無論、表情はにこやかなままで。それがまた一層凄みを増す 「そうねー。でも所詮昔のことよね」 悠もまた迫力を増す。遠巻きに見ると女性二人が楽しくお喋りしている様に見えるだろう しかしテリトリーに入った瞬間針山の上を歩くようなプレッシャー 今すぐこの場から立ち去りたい。何とも言えぬ緊張感が漂う 「お姉さんがそんなだから祐がシスコンになっちゃうんですよ!」 遂に恐れていた発言。核弾頭が発射されてしまった 「結構なことじゃない。弟が姉を慕って何が悪いのかしら」 「度が過ぎてると想うんですよ。お姉さんもブラコンですね」 「貴女の姉じゃないんだからお姉さんはやめてくれるかな?」 コップも割れそうなほど激しい睨み合いが続く 正しく先刻予期した修羅場となった 「じゃあ祐に判断してもらいましょうよ。どう思っているのか」 「ええ、いいわよ。わかりきってることだもの」 閻魔の審判が刻々と我が身に迫る 「え・・・えっとね・・・2人とも・・・?」 「祐!」 「さぁ、祐。遠慮なく言いなさい」 嘗てこれ程までに急を要した二者択一があっただろうか 一歩間違えれば採って食われる 顔は動かさず瞳だけを左右にずらす 眼前に構えられた2人の女性の顔に圧倒される俺は間抜けにも身動き一つ取れない ええい、ここまできて何を迷うんだ俺 落ち着け。まずは呼吸を整えろ。話はそれからだ 明鏡止水。そう、静寂な水面の様に心を落ち着けろ 現在の自分を鏡に映ったもう1人の自分の様に冷静に見つめろ そして答えを出せ。今の自分の心は何たるかを 「えっとだな、2人の言い分はとっても良くわかる。うん」 表面上は穏やかだった2人の顔が険しくなる 「でも・・・俺は姉ちゃんの弟だし、姉ちゃんは俺をすごく大事にしてくれてるし」 後の顛末は火を見るより明らかだった 「だ、だからどっちが正しいってわけじゃないけど俺は姉ちゃんを大切にしたいんだ」 「・・・」 「・・・祐!」 姉が俺の手を取る。悠は少し俯いてあからさまに不機嫌な顔だ やっぱり俺は姉ちゃんが大事だからそう言ってしまったが 後々のことを考えると・・・怖い 「・・・わかりました。今日のところは私の負けです」 勝ち負けの問題なのだろうか 女のプライドというやつなのだろうか 「帰ります」 「またね♪」 誇らしそうな顔を抑えようとする姉。頼むからこれ以上煽るのはやめてくれ 学校で一体どうなってしまうんだと想像に難くない とりあえず玄関まで見送る俺 「・・・」 「・・・」 姉は部屋に残ったが空気が思い。かける言葉が見つからない 「ねえ、祐」 「な、何?」 「帰る前に・・・一言いい?」 「ど・・・どうぞ」 スウッと深く深呼吸。体操でも始めるのかと思いきや 突然俺の右耳が引っ張られる 「いぃっ!?」 ありったけの声で悠が叫ぶ 「こっのシスコン!」 方耳を押さえて蹲る俺を尻目に悠はドアを勢い良く閉め帰って行った 耳鳴りも収まり部屋に帰る ドアを開けた瞬間 「祐ぉ〜!」 「うわっ」 姉が抱きついてくる。そのまま廊下で頭を打つ俺 「ぉ・・・ぉぉ・・・」 「あっ、ごめんね」 今日は厄日ですか。スウィートな一時から一転地獄へと突き落とされる 「ほら、こっちきて。私が癒してあげる」 「う・・・うん」 よろめきながら力なく引っ張られる。そのままベッドに引きずり込まれる ふわっとして気持ちいい。痛みが和らいでいく・・・ 「って佳織さん。何してますか?」 「え?おっぱい枕?」 そうかそうか納得だ。このマシュマロみたいな柔らかな感触 正しくFカップの弾力 「って何してんだよ!」 「ご・ほ・う・び。ちゃんとお姉ちゃんをとってくれたから」 「当たり前だろ。佳織が一番大事だって言ったろ」 「んー。もう好き好き」 そのまま胸に埋められる。まあこんなのもアリだな そう思った休日の日だった |
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